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散歩が日課。今は少し足取りが軽くなった=加古川市内
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散歩が日課。今は少し足取りが軽くなった=加古川市内

 60歳まで地方公務員として働き、幹部として地域振興策の立案にかかわり、総務も担った。人の役に立っている実感があり、充実した日々だった。管理職になり、約100人の部下を持ったこともある。

 「退職直後から毎朝散歩するようになりました。加古川河川敷で1時間ほどぼーっと座る。退職して2カ月で体重が5キロ落ちました。毎晩、何度も目が覚めるんです。疲れて仕事から帰り、朝まで熟睡できた頃が懐かしかったなぁ。何をしても面白くなく、新しいことを始める意欲が湧きませんでした」

 兵庫県加古川市の平山康志さん(70)=仮名=は、うつを疑い、心療内科の受診も考えたが、診断されて大ごとになるのは怖かった。

 定年後は68歳まで外郭団体職員として働き、今は妻と2人でマンション暮らし。2人の子どもは結婚し、孫も3人いる。世間からは何の不自由もない老後生活に見えるかもしれないが、胸に大きな穴が開いた。

 「退職してから、刺激のない人生がずっと続くのかと不安ばかり募りました。でも、年を取ったんだから仕方がないね」

 40年間、懸命に働いた自負はある。休日の半分は出勤し、家庭でも業務に関連する法制度などを勉強した。遅くまで本を読むため、寝室は夫婦別。家事や育児にかかわらなかった。夫婦仲は悪くなかったが、退職後は家事を巡ってけんかが増えた。

 加古川には10年前に引っ越してきた。仕事ばかりだったので、地域に知り合いがいない。専業主婦の妻は交友関係を広げており、「私はいつまでも現役なの? 家事は半々で担うべきじゃない?」と迫られた。

 「妻が支えてくれたことには感謝しています。ですが、私が頑張って働いたことも評価してほしい。子どもたちを大学に行かせ、今も不自由なく生活できているじゃないか。『もう働いていないんだから』で片付けられると、これまでの人生を全否定され、自分がなくなってしまいそうに思えるんです」

 本音をぶつけられないまま、散歩をする毎日が続いた。ほとんど人に会うこともなく、一言も声を出さない日すらあった。

 空いた時間を生かそうと、株にも手を出した。だが慣れないためか失敗し、多額の損失を出した。ストレスになっただけ。本当にやりたいことではなかった。

 退職から1年が過ぎ、居場所を求めて、県高齢者大学「いなみ野学園」に入学した。今は週に3日、授業や部活動に通う。みんな同じような思いを抱えているのだろうと思うと、少し気分が楽になった。その一方で教養を身に付けても、自己満足にすぎないのではと思うことがある。

 「きざな言い回しかもしれないけど、本当は仲間たちと汗を流して困難を乗り越え、多くの人を笑顔にしたいんだ。年だから仕方がない。頭では分かるが割り切れない。もう一度、新しい人生を踏み出したい。ボランティアをしてみようかな」(本田純一)

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