但馬

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香住沖海戦を目撃した断崖の岩場で記憶を語る宮代實也さん。中央に見えるのが白石島=香美町香住区一日市、岡見公園
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香住沖海戦を目撃した断崖の岩場で記憶を語る宮代實也さん。中央に見えるのが白石島=香美町香住区一日市、岡見公園
海戦の戦没者を悼む鎮魂碑に手を合わせる宮代實也さん=香美町香住区一日市、岡見公園
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海戦の戦没者を悼む鎮魂碑に手を合わせる宮代實也さん=香美町香住区一日市、岡見公園

 太平洋戦争終戦の前日、兵庫県香美町香住区沖で日本海軍の海防艦2隻が米国の潜水艦に撃沈された香住沖海戦。当時16歳だった宮代實也さん(90)=同県豊岡市=は、近くにあった海軍の青少年訓練所の訓練生として目撃した。「真っ二つに裂けた軍艦が音を立てずに沈んでいく。不気味な光景だった」-。終戦から74年を迎え、海戦の生存者や目撃者もごくわずか。宮代さんは「戦争だけは二度と繰り返してはいけない」と力を込める。(金海隆至)

 「空は青く、気持ちの良い朝だった」。宮代さんは鮮明に覚えている。

 岡見公園(同町香住区一日市)東端の砂浜にあった訓練所には8月5日に入所した。但馬各地から集まった10代の約40人と共に、本土決戦を想定した銃剣術の鍛錬や後方支援の講義などを受けた。14日は10日間の訓練の最終日。昼すぎの列車で帰郷し、家族と迎える盆を楽しみにしていた。

 訓練所内を清掃していた午前9時ごろ、空襲警報のサイレンが鳴り響いた。緊急招集を受け、前庭に整列。所長から「香住沖で日本の輸送船団がアメリカの潜水艦に襲われたという情報が入った。救援へ出動して訓練の成果を発揮してほしい」と告げられた。

 カッターボート3艇に訓練生と教官が約10人ずつ乗り込んだ。沖に背を向けて櫂を握り、白石島の西側を懸命に漕ぎ進む。「恐怖感より、助けにゃならんという気持ちの方が強かった」

 汽笛を鳴らして浜を目指す一隻の貨物船が目に入った瞬間、後部甲板の大砲が爆音とともにオレンジ色の炎を吹いた。「貨物船が潜水艦を砲撃したのか」-。戦場にいるという意識がふいに重くのしかかった。

 「櫂立て!」。船上にいた教官の大声でボートは停止した。「指令が来た。義務のない少年を危険な場所に連れて行けない。残念だが帰港する」

 ボートを反転させると、沖合に異様な光景が広がっていた。全長60メートルを超える海防艦(第47号)の周辺に巨大な水柱が二つ三つと噴き上がる。教官は「あれは潜水艦を攻撃する爆雷だ」と説明した。海防艦が交戦している間に貨物船が避難するのか、と思った。

 「バッ」。海防艦の横腹で大きな水しぶきが爆裂した。魚雷が命中したのだ。へさきと艦尾に分かれた艦体は、黒い海原に突き刺さった格好で、そのまま静かに沈んだ。「海の底につかえているように立っていたかと思うと、音もなくスーッと消えた。ぼうぜんとするしかなかった」

 香住町漁業協同組合史によると、第47号海防艦の沈没後、海軍の連絡基地隊が乗組員救助を同町漁業会に要請。漁師たちが小型漁船で向かった。宮代さんは帰港途中、沖へと急ぐ漁船をいくつも見た。「漁師たちは勇敢だった」。遠い水平線に別の海防艦(第13号)が見えた。

 訓練所に戻り、修了式を済ませた宮代さんは、後から来た海防艦が気になり、裏山の岡見公園を駆け上った。群衆をかき分け、断崖に立つと、最初の海防艦と同じ光景が見えた。真っ二つになった艦体が垂直に立ち、海にのまれた。「あーっ」。人々からうつろな声が漏れた。皆、水平線を見つめ、立ち尽くしていた。

 隠れるように山を下り、帰郷のため香住駅へ走った。列車の中で「香住沖にアメリカの潜水艦が来ているなんて。日本は国を守れるのか。きょう目撃したことを人に話してもいいのか」と悩んだという。

 「戦争は人間を変える。世の中に是認する空気が生まれると、途方もない方向に走り始めてしまう。正しい情報を知らされなくなる」と警鐘を鳴らす。海防艦2隻は今も、香住沖に沈んでいる。

【香住沖海戦】1945年8月14日午前、香住区沖約6キロで発生。元山(ウォンサン)港(現北朝鮮)へ向かう予定だった第47号海防艦(乗組員201人)と第13号海防艦(同210人)が米国の新型潜水艦トースクの魚雷攻撃で沈没した。56人が犠牲になったが、漁師らが漁船で355人を救助した。

【海防艦】香美町内の小学校で香住沖海戦の授業に取り組む香住青年会議所によると、対潜・対空迎撃用の小型護衛艦で約170隻製造された。第47号、第13号とも全長67・5メートル、全幅8・4メートル。第13号は国内最後の戦没艦とされる。魚雷で攻撃した潜水艦トースクは、米東部のボルティモアにある博物館で展示されている。

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