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出版社「ライツ社」社長兼編集長の大塚啓志郎さん=明石市(撮影・後藤亮平)
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出版社「ライツ社」社長兼編集長の大塚啓志郎さん=明石市(撮影・後藤亮平)
「ライツ社」の看板(撮影・後藤亮平)
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「ライツ社」の看板(撮影・後藤亮平)

 残業したくない会社員の心情を描いた漫画「僕たちはもう帰りたい」。IT企業との出版事業「サイボウズ式ブックス」。100食限定で営業時間は3時間半という京都の定食店のビジネス書「売上を、減らそう。」-。2016年の創業以来、話題作を連発する社員5人の出版社「ライツ社」(兵庫県明石市)をご存じだろうか。「出したい本だけを出す」を前提に、刊行点数は年6~7冊と少ないものの、重版率7割と業界平均(1~2割)をはるかに超え、しかも残業はほぼないという。15年連続で紙の販売額が減り、編集者の激務が言われて久しい出版業界の会社とはとても思えない。書籍と新聞の違いはあれど、コンテンツを作り届ける側としても気になる。社長で編集長の大塚啓志郎さん(34)に戦略を聞いた。(竹内 章)

 ー30歳で独立。希望と不安がない交ぜだったと思います。

 「以前働いた出版社では、夜も遅く、仕事の多くがマネジメントや会議でした。大好きな本作りに充てられるのは、週に2日程度。限りある時間を自分や大切な家族のためにも使えない。会社のことは大好きだけど、このままでいいんだろうか。営業担当の同僚に相談したところ、彼も同じ悩みを抱えていました」

 「そこで年間何冊の本を作ったら売り上げはどれぐらいになるか、重版率や経費は、と試しに計算してみました。これなら何とか回せるんじゃないかと、退職後2週間でライツ社を立ち上げました」

 ー社名にはどんな意味を込めているのですか。

 「write(書く)、right(正しい)、light(光)の三つの『ライト』から『ライツ』としました。書く力で誰かを真っすぐに照らしたい。そんな気持ちを込めてます」

 「京都で働いていたので、関西のどこかに事務所を構えようと考えていました。東京は考えもしなかったです。退職後、地元の明石に戻ったら、祖父が所有するビルの1階が空いていて、その上の住居にも2部屋の空きがありました。この環境なら集中して本作りに打ち込める、僕の家族も共同創業者になってくれた同僚の家族も、ここに住める。即決でした」

 ービジネス書、写真集、漫画、料理レシピ本などこれまで26冊。ジャンルを問わず、話題作が続きます。このあたりは企業秘密ですか。

 「全然かまいません(笑)。僕たちの本作りは、まず企画が日本初であるかを大切にします。そこさえクリアすればおのずと結果はついてくると思っています」

 「『全196カ国おうちで作れる世界のレシピ』は、料理レシピ本は日本に数あれど、唯一の内容じゃないかなあ。著者の本山尚義さんは、フランス料理店で修業を積んだ後、旅先のインドでスパイスの魅力に開眼しました。世界中を訪ね、市場のおばちゃんたちに料理を教わり、196カ国の料理を全て習得しました。そんな経験をした人の本が面白くないわけがありません。3万部のヒット作になりました」

 ー1年間に発行される新刊書籍は7万点以上。売れ筋の予測は難しく、ヒットの基準である重版率は10~20%。出版は大量の本を出して、どれかヒットすれば、というビジネスモデルに見えます。

 「3期目は6冊を刊行し、売り上げが1億5千万円、重版率は71・4%でした。本当にやりたい企画しかやらないから、編集者は手塩にかけて出しますし、妥協をしません。営業面でも利点があります。通常は書店さんからもらえる時間は多くて5分。もし案内する本が5冊あれば、1冊1分しかありません。でも2カ月に1冊という限られた発行ならば、伝わり方が全然違ってくる。時間をかけて1冊の本を営業することで、書店さんと『一緒にやろうよ』という関係を築けました」

 ー社員5人の会社ならでは、という編集方針はありますか。

 「定例会議がありません。アイデア出しは全員でやっていますが、思いついたらLINEに投稿し、反応が良ければ練り上げていきます。既読スルーの企画は没です。僕ら5人が面白いと思えるものなら、そう外れはないんじゃないか。日本中に1万人ぐらいは同じように感じてくれる人がいるだろう、と思います」

 「社内調整が必要ないので、僕らには気になった著者にすぐにアプローチできます。5万部を超えた『売上を、減らそう。』では、ネットで記事を見て数分後に、著者の中村朱美さんに出版依頼のメールを送りました。別の出版社からもオファーが来ていましたが、僕たちを選んでいただいた。中村さんが経営する佰食(ひゃくしょく)屋は、どんなに売れても1日100食限定で残業ゼロ。『社員を犠牲にしてまで売り上げを増やすのはやめる』という理念があり、業績至上主義とは真逆の飲食店ビジネスを実践しています。同じように年間6~7冊、出したい本だけを出版するライツ社の姿勢に共鳴していただいた結果だと思っています」

 ーライツ社のブログには自社の宣伝だけでなく、「明るい出版業界紙」と題して、業界内注目の取り組みをアップしています。新しい公共サービスとして注目される八戸ブックセンター(青森県八戸市)のリポートもあります。

 「出版業界を伝えるニュースは暗い話ばかり。このままでは本に関わりたい人そのものが減ってしまう。だから、もう出版不況って言うのやめませんか、という趣旨で可能性を感じる話題を集めています」

 「書店の役割はもともと、その土地の文化や面白い話を、その土地で本にして読んでもらうことにあったと思います。独立直後の僕らは書店に助けてもらった。だからもっと書店に近い出版社になって貢献したい」

 ー東京ではできないことが地方の書店や出版社ならできる、と?

 「今、関西の出版社であるライツ社と関西の書店、そして関西の作家が一緒になって、関西を舞台にした小説を作ろうというプロジェクトが始まっています。東京で作られたものを地方で売るという形ではなく、小説だって地産地消できるんじゃないかと」

 「本作りの原点を目指したいんです。その土地土地にいる作り手、売り手、そして読み手。本との出合いを求めている全ての人をつなぐアイデアを発信することが、僕たちの役割だと思っています」

【おおつか・けいしろう】1986年明石市生まれ。関西大学を卒業後、いろは出版(京都市)に入社。事業部長を務めた後、2016年9月に地元の明石市でライツ社を創業。3児の父。

【記者のひとこと】熱意と時間をかけて、本を編集し売る。読者と幸せな関係を築く。身の丈、ミニコミだけではくくれない出版の可能性を感じる。翻って多様な情報を日々発信する新聞は? 答えを考え続けるしかない。

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