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ラウパッハ・スミヤ・ヨーク教授=大阪府茨木市、立命館大
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ラウパッハ・スミヤ・ヨーク教授=大阪府茨木市、立命館大

 地球温暖化と気候変動を抑える方策として、世界各地で再生可能エネルギーの導入が広がる。急速に普及した母国ドイツと日本との比較を続けてきた立命館大教授のラウパッハ・スミヤ・ヨークさん(59)は、地域に付加価値をもたらすという意識の重要性を指摘する。人口減や財政縮小という難局を乗り越えて地域社会を存続するために、まずは身の回りのエネルギー「地エネ」に焦点を当てた、地域資源の「棚卸し」を勧める。(辻本一好)

 ー日本の大学でエネルギーについて教えるようになった経緯を教えてください。

 「福島の原発事故がきっかけです。日本には30年前に来て、日本の会社に勤めていました。その後、2011年1月にドイツに戻り、企業で仕事をしながら大学で国際経営学について教えました。久しぶりに帰ったドイツは再エネが普及していて、環境問題や地球温暖化への姿勢が日本と対照的だなと思っていたときに、東日本大震災が起きたのです」

 「原発事故への日本の政府、メディア、学者の対応に不信感を覚えましたが、研究者としてドイツと日本の橋渡しをしたいという思いもあった。それに、大学で担当していた産業論の立場から見ると、エネルギー産業は大きな構造の変化に直面しており、おもしろい分野だなと思った。日本の大学からのオファーにご縁を感じ、戻ることにしたのです」

 ーエネルギー産業の構造変化とは?

 「化石燃料や原発といった大型で中央化された発電・供給システムから、太陽光や風力など小規模分散型への転換です。これまでも経済社会システムで革命と呼ばれるような大きな変化が起きた際は、エネルギーやコミュニケーションの技術の変化がありました。私たちは情報技術と再エネを組み合わせて、経済と社会のシステムを変えようとしている。重要な分岐点にいます」

 ー大学では、そうしたエネルギーの変化と地域経済との関係性を研究されているのですね。

 「ドイツの再エネ普及の動機は、環境や温暖化防止の観点も重要ですが、経済や政治的な意味もある。今までは石油などのエネルギーを手に入れるため、地域から富を流出させてきました。一方、太陽光、風力、水力などは地域に分散した資源です。その土地の地域経済にもたらすポテンシャルが大きい」

 「再エネへの転換が地域経済に与える影響を定量的に評価するモデルに『地域経済付加価値分析』があります。京都大学の諸富徹先生たちと研究し、データをもとに地域にもたらす経済付加価値を評価するソフトを開発し、本も出しました。自治体との共同研究では、最初に長野県と環境エネルギー政策を検証しました。岡山の西粟倉村、北海道下川町などとも手掛けています」

 ー経済効果について、もう少し詳しく教えてください。

 「まず、地域資源を活用できれば大きな効果があります。例えば、バイオマスは森林資源などを継続的に利用できます。一方、風力や太陽光は燃料費がゼロで、製造段階では地元への利益も期待できない。なので、できるだけ地元の出資で建設し、発電などの利益が地元に落ちるようにする。土地を貸して、自治体が固定資産税を稼ぐといった視点にとどまらず、そうした収益を可視化することで政策的な議論を起こすことができます」

 ー自治体には何が求められるのでしょうか。日本ではドイツの自治体出資の公益企業「シュタットベルケ」が注目されていますが。

 「私は日本版のネットワークの理事もしていますが、シュタットベルケを電力小売りの『新電力』という捉え方には慎重になるべきでしょう。日本では自治体の企業局などが近い形ですが、シュタットベルケは電力だけでなく、ガス、熱、水道、下水、ごみ処理のほか、公共交通や公営プールも手掛けています」

 「日本もこうした地方公益企業はドイツと同様、100年の歴史があります。ですが、日本の場合、ガスと電気は大手の地域独占に変え、水道や下水などに限られるようになった。一方、シュタットベルケは生活に必要なインフラ事業を総合的に手掛ける上に、ヨーロッパのエネルギー自由化の競争を乗り切った経験、人材、ブランドがあります」

 ーでは、これから再エネに取り組む自治体や地域に対し、どんなアドバイスをしますか。

 「いつも言っているのは、地域や自治体が持っている資産、財産の棚卸しをすることです。縦割りの構造を超えて、エネルギー事業をどう展開できるか考えるために」

 ー上水道を生かした水力発電や、下水汚泥を発酵させて得たバイオガスの熱利用と発電などを始めている現場もあります。

 「下水や生ごみのバイオガス、ごみの焼却熱の活用などはもっとできます。地域の再エネ利用は、災害に強い地域づくりのためにも重要です。さらに言えば、未来の社会のことも考えなければ。人口減少、高齢化する中で地域のインフラをどう次の世代につなげるのか。電気自動車や燃料電池を使って、交通とエネルギーを情報技術でつなぐ社会が見えてきましたが、地元のエネルギーが不可欠です」

 「日本の再エネは全然足りません。特に風力。メガソーラーもそうですが、日本では風力発電事業を地元外の企業がやろうとするから、反発が起きる。ドイツやデンマーク、スコットランドでは、住民が事業の中心になって合意形成し、風力発電が広がった。そしてもっと農地を利用する必要があります。太陽光では農業と両立するソーラーシェアリングが取り組まれています。風力でも農業に使われず、各地で増えている耕作放棄地を使ってはどうでしょう。どの地域にも風が吹く場所はあります。また、弱い風でも効率よく回る風車もできていますよ」

 ーいろんなハードルがありますが、地域を次代につなげるためには何が必要でしょうか。

 「ひとことで言えば、『志』ですね。国は地域や企業が安心して再エネに投資できるよう、原子力をやめて再エネ重視をもっと明確にし、法的整備を進めるべきです。地域は企業、金融機関、市民団体、行政がもっと連携する。縦割りの中でやってきた自分たちの事業を、どう束ねて相乗効果を生み出すのか。そのキーワードがエネルギーなのです」

【ラウパッハ・スミヤ・ヨーク】1961年生まれ、ドイツ出身。90年来日。外資系産業機械メーカー役員などを経て、2013年から立命館大学経営学部教授。日本シュタットベルケネットワーク理事。

【記者のひとこと】「なぜ、荒れた農地を生かさないのですか」という問いが心に響いた。特に風力は日本の再エネの弱点となっている。子どもたちに地域を残したいという志を束ねて、増え続ける放棄田を風車の風景に変えることから始めてはどうだろうか。

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