三田

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研究が進むヒアリ
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研究が進むヒアリ
橋本佳明主任研究員
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橋本佳明主任研究員

 2017年5月、博物館でアリの研究をしている私のところに、神戸港に陸揚げされた中国コンテナに潜んでいたアリが環境省から同定のために送られてきました。そのアリこそ、日本で初めて侵入が確認された特定外来生物ヒアリでした。すぐにヒアリであると確認できたことで、そのコンテナが放置されることもなく、素早く的確な対策が実施されました。この時、発見されたヒアリは千匹近い集団で、そこには女王アリや働きアリだけでなく、翅のある新女王アリやオスアリも含まれていました。

 もしも、ヒアリと確認するのに手間取っていたらその間に、羽アリが飛び出して周囲に営巣していたかもしれません。ヒアリの新女王は5キロほど飛んで分散することができ、新しい巣は早ければ7カ月ほどで、また翅のある新女王アリの生産をはじめることが知られています。今頃は兵庫県内にヒアリがまん延し、人の刺傷被害だけでなく、年間20億円以上の農業被害などさまざまな経済活動に巨額な損益をもたらしていた可能性もあったのです。

 中国からのヒアリの侵入は、今も続き、現時点でヒアリの侵入は15都道府県で48事例に拡大、発見されたヒアリの個体数は1万匹を超えました。この間、環境省と中国を訪問し、輸出コンテナへのヒアリ対策強化をお願いしましたが、その返答は「中国は港湾を完全に管理しており、ヒアリは1匹もいない」という趣旨のものでした。それならばと、「わさび」の匂い成分を樹脂に埋め込んだ新素材を使い、ヒアリをコンテナに寄せ付けない安全な忌避剤や、侵入したヒアリを簡便に殺虫できる薫蒸剤の研究開発を始めました。ヒアリが侵入定着して10年になる台湾に何度も通い、ヒアリに何度も刺されながら、わさび成分がヒアリを1匹も寄せ付けず、完全に薫蒸殺虫できることを確かめ、今は、実用化に向けた研究を進めているところです。

 博物館の研究や、アリのように小さな昆虫の研究など、社会の役には立っていないと思われるかもしれません。しかし、私が博物館で世界中のアリを相手に研究をしていたことで、ヒアリが初めて日本に現れた時に、すぐに、その正体を知ることができたのです。「わさび」の匂いを埋め込んだ新素材も、博物館で安全な標本管理の新手法を探していたことで知ることができたものです。ヒアリの出現のように、これまでにないことが起こった時に、意外に、博物館の基礎的な研究が役に立つのです。

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