三田

  • 印刷
谷中の水路。淵へ注ぐ小川から水を引く=三田市井ノ草
拡大
谷中の水路。淵へ注ぐ小川から水を引く=三田市井ノ草
(左上)西側の山々のくぼんだ部分が谷(右上)水路橋。かつては丸太で造って架けたという(左下)谷の池から田畑に水を注ぐ(右下)指さす場所が川の淵=いずれも三田市井ノ草
拡大
(左上)西側の山々のくぼんだ部分が谷(右上)水路橋。かつては丸太で造って架けたという(左下)谷の池から田畑に水を注ぐ(右下)指さす場所が川の淵=いずれも三田市井ノ草
挿絵・岩本芳子さん
拡大
挿絵・岩本芳子さん
挿絵・岩本芳子さん
拡大
挿絵・岩本芳子さん

 そこは秘境のようだった。

 「井ノ草は山に囲まれて雨が少ない。やけんど、あの谷の上に雲が出ると、谷中にようけ降り注ぎよる」

 地元で育った今垣弘さん(90)が案内してくれた。山際を走る武庫川に水路橋が架かり、渡って谷中の樹林へ。その先の池から小川が流れ、昔から水路で田畑に引き込むという。

 橋の途中、谷下にある川の淵を見た。「次郎兵衛淵」でなく「ばんじょう淵」と呼ぶが、池の水が流れ込み、かつて付近には「雨の宮」という社もあったらしい。先人が淵を目印につくった池からの水路が民話の舞台で間違いなさそうだ。

 と、今垣さんが川下を指した。「あの茂みの岩に大蛇がおると伝わるんよ。やから子ども時分、谷には怖くてよう近寄れんかった」

 高齢と思えぬ健脚で茂みを払い、倒木をまたいで進む。なんだか聖地に行くようだ。池は集落にとって「命の泉」。だから恐ろしい大蛇を語り継ぎ、立ち入りを防いだのかもしれない。

 「これが池からの水路。この先は足元が危険やわ」

 大蛇がいた水路だろうか。水をせき止め、川の氾濫から村を救った。なんてありがたい神さまだろう。

 とその時、小さなヘビが草陰をニョロ…。思わず絶叫すると、「今年はハメ(マムシ)がよう出るでぇ」と今垣さんが笑った。

 現実のヘビはなお怖い。聖地は守られている。(安藤文暁)

   ◇   ◇

■三田の民話「次郎兵衛淵の大蛇」

 井ノ草と長坂の間の川に、次郎兵衛淵という大きな淵があった。

 井ノ草で作物のできない年が3年も続いたことがあった。日照りで米が実らず年貢も納められない。食事も満足にできなくなった。

 村人たちが相談した。「そうだ。次郎兵衛淵のとゆ(水路)を大きくしてみないか」。みんなで掘り下げると、見る間に田んぼに水が入り、枯れた土が潤っていった。年寄りは手をたたき、子どもは走り回って喜んだ。苗はすくすく伸び、青々と育つようになった。

 ところがある時、突然水がこなくなった。若者らが水路を見て回ると、淵の近くで大きな枯れ木が引っ掛かっている。力いっぱい引っ張っても、びくともしない。その時、一人が叫んだ。

 「枯れ木が動いているぞ!」。ぐねぐねと不気味にのたくり、黄色い腹が波打った。「大蛇だ!」

 村一番の力持ちという若者が鍬を振り下ろそうとした。すると、大蛇は首を持ち上げ、眼をらんらんと光らせ、鼻から霧のような生臭い息を吐いた。赤い舌を出してこちらをにらむ姿は、この世のものとは思えない恐ろしさだった。

 「逃げろ」。若者らは飛んで帰り、村人らに話して回った。

 その夜から雨となり、7日も降り続いた。田畑が水に漬かると思われたが、不思議なことが起きた。あの大蛇が水路の中にうずくまり、水をせき止めてくれたのだ。

 村人らは大蛇に感謝し、ますます田んぼ仕事に精を出したとさ。(三田市「三田の民話100選」から。挿絵は岩本芳子さん)

三田の最新
もっと見る

天気(10月21日)

  • 24℃
  • 18℃
  • 30%

  • 22℃
  • 12℃
  • 20%

  • 25℃
  • 16℃
  • 50%

  • 24℃
  • 15℃
  • 40%

お知らせ