兵庫県三田市内で田植えが本格化している。市街地のある市域の南部では苗植えを待つ水田が広がり、夜には街や電車の明かりが映り込んで幻想的な光景をつくりだす。ところが気付けば、北部の一部地区ではすでに田園の緑が風になびいているではないか。南部と北部で時期が違うのはなぜだろう? そこには同県丹波篠山市を含む北部に特有の伝統的な農産業も影響しているようだ。(門田晋一)
JA兵庫六甲によると、市内には計1200ヘクタールの稲田があり、品種は「コシヒカリ」や「どんとこい」のほか、酒造好適米の「山田錦」が栽培されている。田植えは南部で5月上旬から徐々に始まり、6月上旬まで続く。一方で北部の母子、永沢寺地区などでは4月スタートで5月中には済ませてしまっている。丹波篠山市もほぼ同じという。
「田植えは北へ寒冷地にいくほど早く終える傾向にあるんです」。そう話すのは、植物分類学が専門で県立人と自然の博物館の高野温子主任研究員(48)だ。
米の生育には一定以上の温度と日照時間の積算が欠かせない。寒く、曇りがちな地域で積算量を確保するには、早く苗植えをしないと稲刈りの秋に間に合わない。逆に暖かくて日差しがいいと生育は早いという。
確かに市街地がある南部に比べて北部は200メートル以上標高があり、気温は1度以上低くなる。一方で丹波篠山市の気温は同消防本部のデータしかないが、三田市南部の気象庁観測と比べると昨年4、5月はともに0・4度低くなっている。
でも、それだけ? JA丹波ささやまは、苗植えが早まる理由に「黒枝豆」と「酒造り」が影響している可能性を指摘する。
黒枝豆は10月の販売解禁に向けて6月に種まきするため、早く田植えを終わらせて準備に移らないといけない。
さらに10月には日本酒の仕込みが始まる。この地にはかつて灘五郷を中心に酒造りの仕切り役で知られた「丹波杜氏」や蔵人として出稼ぎに出る人が多く、10月には稲刈りを済ませておくため、田植えを早めるようになったのではないか、との説もあるという。
ちなみに同県豊岡市は「フェーン現象」の影響で暑く、苗植えは5月上旬から。一方で気温の低い同県香美町は早く植えたいものの、冷たい雪解け水が生育によくないというジレンマを抱え、水がぬくもる同月中旬からシーズンを迎えるという。
地域のさまざまな事情を背景に、米作りはこれからが本番。農家の方々の工夫と苦労があってこそ、今日もおいしいお米が食べられます。
