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神戸に根付いた洋食文化のルーツを探る「神戸と洋食」を出版した江弘毅さん=神戸市中央区東川崎町1
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神戸に根付いた洋食文化のルーツを探る「神戸と洋食」を出版した江弘毅さん=神戸市中央区東川崎町1

 デミグラスソースがたっぷりと掛かったハンバーグやよく煮込まれたビーフシチュー、スパイスが舌を刺激するカレーライス。神戸に根付いた洋食文化のルーツを探る「神戸と洋食」を神戸市中央区の編集者江弘毅さん(61)が出版した。旧オリエンタルホテルが洋食の礎を築いた明治期から、「街場の洋食」が花開く現代までを緻密な取材で解きほぐす。江さんは「イタリアンやフレンチの波に流されず、昔ながらの洋食が残っているのが神戸のすごさ。その連続性を丁寧にたどった」と話す。

 大阪府岸和田市生まれの江さんは、神戸大学農学部を卒業後、「ミーツ・リージョナル」誌を創刊し、12年間編集長を務めた。街と食に関する著作が多く、2017年からは神戸松蔭女子学院大の教授も務める。

 同書は同大着任後、神戸の洋食文化について講演したことがきっかけで執筆に着手。多方面に取材し、完成には約2年を要した。

 「味も歴史も圧倒的」と語る旧オリエンタルホテルには、たっぷりと紙幅を割いた。1870年ごろに開業した同ホテルは87年、「日本のフランス料理の父」とされるルイ・ベギューが社主に就任。英国人作家キプリングがホテルの食事を絶賛する旅行記を残し、江さんはその文章を引用しながら、「このような天衣無縫のべたほめ記事は読んだことがない」と編集者らしい視点をのぞかせる。

 同ホテルの料理は舌の肥えた政財界人らを魅了したが、阪神・淡路大震災で被害を受けて閉鎖。働いていた料理人は神戸で独立し、「舌で覚えた」味を街場で再現した。江さんは1軒1軒訪ね歩き、食欲をそそる写真とともに紹介している。

 また、洋食の主役であるデミグラスソースにも注目。「流行の波にのまれてフランス本国でも使われなくなったが、神戸ではしっかりと受け継がれている」とし、神戸の洋食は現在のヨーロッパにもない「準日本料理」だとする。

 その他、タマネギやオリーブなど洋食に欠かせない食材と神戸の関わりや、豪華客船の厨房出身の「船を下りたコックたち」にも言及。文章の端々に洋食文化への愛を感じさせる。

 ある記事の締めくくりはこうだ。

 「ミナト神戸の洋食物語は『昔はよかった』ということではなく、いまなお追い足し追い足しのソースのように、どんどん味わい深くなっているような気がするのだが、どうだろう」

 神戸新聞総合出版センター刊。162ページ。1760円(税込み)。(伊田雄馬)

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