防災 防災 ひょうご防災新聞

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神戸大都市安全研究センター教授大石哲さん=神戸市灘区、神戸大都市安全研究センター(撮影・秋山亮太)
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神戸大都市安全研究センター教授大石哲さん=神戸市灘区、神戸大都市安全研究センター(撮影・秋山亮太)

 10月12日に東日本を縦断した台風19号は、信州から東北にかけて広い範囲に記録的大雨をもたらした。堤防決壊が相次ぎ、死者・行方不明者は100人近く、住宅被害は8万棟を超え、水害では初の非常災害に指定された。昨年の西日本豪雨をはじめ、近年各地で水害が頻発し、激甚化が叫ばれる。神戸大都市安全研究センター教授の大石哲さん(51)=水工学=は、高齢化や人口減少が進む社会では「地域で命を守る、共助が大事」と訴える。どのような防災対策を採り、どう避難誘導すればいいのだろうか。気象予報士の資格を持ち、スーパーコンピューターを活用した災害予測に取り組む大石さんに聞いた。(田中真治)

 ーどうしてこんなに豪雨や台風災害が増えているのでしょうか。

 「2000年代後半から、1時間に50ミリ以上の雨が降る回数や洪水被害が増えている。台風到来の時期も、9月1日前後の『二百十日』から10月に延び、今までより大型で強くなっていると言っていい」

 「明らかに海水温の上昇が被害を大きくしている。海面の水温が高いと水蒸気の量が増し、雨量が多くなる。さらに海面から水深50メートルまでの水温も高くなる傾向にあり、台風が通過して海水がかき混ぜられても水温が下がらない。台風19号でも大量の水蒸気を吸い込み、日本に運ぶメカニズムが働いていた」

 ー台風19号では、千曲川や阿武隈川など71河川140カ所で堤防が決壊し、その9割は県が管理する中小河川でした。ハード面の対策はどうすべきですか。

 「ハード面では費用対効果の点から限界のある対策しか立てられず、しかも工事に時間がかかる。県管理の河川は膨大で、人口の少ない地域は後回しになり、10年に1度の大雨に対応する程度で作られる。そういう弱いところから被害が進む構図になっている」

 「注目される対策の一つは事前放流だ。天気予報を見て水位を下げ、ダムの容量を確保して下流に流れないようにする。ただ、放流には時間がかかる。群馬県の八ツ場(やんば)ダムでいえば、容量は約1億立方メートルあり、放流の準備を考えると、1週間前から的確な予報が必要になる。予報の精度を上げなければ、なかなか踏み切りにくいのではないか。もう一つの対策はダムのかさ上げだ。ダムは上面積が広くなるので、数メートルのかさ上げでも容量はかなり大きくできる」

 ーJR東日本の長野新幹線車両センターが浸水したのも衝撃的でした。

 「遊水地利用という対策がある。横浜市の日産スタジアムは鶴見川の遊水地機能を残した高床式で造られ、川に流れきれなくなると、グラウンドの下の駐車場部分にためる。私見では、新幹線の車両基地もそういう設計なら被害を抑えられた。兵庫県では、一定規模以上の開発に雨水の流出を抑制する調整池の設置を義務づけており、開発者の意識は変わりつつあると思う」

 ー川崎市のタワーマンションなどでは、雨水が下水道などからあふれる「内水氾濫」で地下の電気設備が浸水し、停電や断水が発生しました。

 「川崎市の武蔵小杉駅周辺は、もともと小川がたくさんあった土地だ。NHKの番組『ブラタモリ』でも紹介されていたが、そういう情報が水害に結びつけられていなかった。その土地に合った開発はもちろん、設備の在り方も考えていかなければ。住んでいる土地を理解すれば、いざというときにどう行動すればいいか分かってくるのでは。そして住民同士の助け合いが必要なことも。行政任せになってしまうのはよくない」

 ーハード面とソフト面の対策を組み合わせることが大事になってきます。台風19号では犠牲者の7割が高齢者でした。

 「高齢者や子どもなど、パソコンやスマートフォンを持たない人に情報を伝えるのは難しい。富山市で関わった共助の取り組みを紹介したい。神戸大の予測技術と古野電気の小型気象レーダーで、地域を絞って雨雲の動きや浸水域を表示するシステムを開発した。地域のリーダーがそれを見て避難を判断し、まだ安全な時点で住民に伝える。こういう活動が本当に大事。ハードは正しい情報の入手をサポートするだけだ」

 ー各地の被害を見ると、ハザードマップの有効性が分かります。一方で住民にどこまで周知されているか、が課題となっています。

 「この台風だと一番ひどい被害はこうなると、その時々の状況を提示する“動くハザードマップ”ができれば、リアル感があって適切な避難につながっていくと思う。それを実現するには、雨量と川に流れる雨水の量、氾濫した水の流れ方の計算が必要になる。いろんなケースを想定して計算しないといけないが、『京(けい)』や『富岳』などスパコンの計算速度は上がっているので、それなりの精度でできると思う」

 ー法律的な問題も指摘されます。

 「気象業務法では予報は気象予報士がしなければならず、災害対策基本法などでは避難指示や避難勧告は市町村長が発令すると規定する。コンピューターが自動ですることになると、整理が必要になる」

 「その次のステップは気象予報の精度を上げて、本当にリアルに、今の台風であなたの街は3時間後にこうなると示すこと。予報の精度を上げるのはコンピューターの能力ではなく、気象現象の理解の部分になる。現在は完全に理解できているわけではなく、ハードルが高い」

 ー科学技術とともに、私たちも防災意識を高め、早期に広域避難することが必要になってきます。

 「一概に『早期に、広域に』というよりも、避難が必要な人から順番に、適切なタイミングで確実に逃げられることが理想的だ。避難を判断するリーダーの責任が重くなるので、皆で研修を受けておくなど事情に応じた取り組みが必要だ」

【おおいし・さとる】1968年静岡県島田市出身。93年京都大大学院工学研究科修了。山梨大准教授などを経て現職。理化学研究所計算科学研究センターのチームリーダーを兼任。博士(工学)。神戸市東灘区在住。

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