正平調

時計2019/07/09

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戦前戦中の日常生活を描いた中島京子さんの小説「小さいおうち」は、2010年の直木賞を受賞した名作だ。山田洋次監督の手で映画にもなった◆主人公の少女タキは東北から「女中奉公」に出て、東京の赤い三角屋根の洋館で暮らす。彼女の部屋は階段裏のとても狭い空間だが、晩年にこう述懐する。「たった二畳の板間をわたしがどんなに愛したか」◆先日、神戸・北野の異人館、萌黄(もえぎ)の館で行われた見学会に参加した。普段は立ち入ることができない別棟の特別公開で、そこには二つの使用人室が設けられていた◆それぞれが5畳の和室。1室を2人で使ったこともあるという。母屋の洋室と比べれば天井も低いが、こぢんまりして落ち着きそうだ。タキの小さい部屋を想像させる。そのまま残っているのは貴重だと説明を受けた◆萌黄の館はベランダを備え、外壁は横長の下見板が張られている。建築史家の藤森照信さんによると、南方向きのベランダはアジアを経て東回り、寒冷地仕様の下見板は北米を経て西回りで来て、神戸で出合った。壮大な話だ◆タキが住んだ家には後に戦争が暗い影を落とす。一方、北野の異人館は空襲や震災を乗り越え、眼前にある。その来歴も含め、奇跡のようだと思いながら改めて見上げる。2019・7・9

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