正平調

時計2019/06/16

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古書店で1冊の本を見つけ、その男は悲鳴のような声を上げた。手に自費出版の質素な短編集がある。「この作家をご存じか」と興奮した口ぶりだ◆男の父が書いた本だった。小説家を志し、かなり借金をして出版した。そのせいで一家は貧しい日々を強いられたそうだ。亡くなった後、母は本を売った。コッペパン1個分のお金にしかならなかった◆時が過ぎ、その本がここにある。困った店主が値段は100円と言うと、「親父(おやじ)を辱めるのか」と気色ばんだ。とうとう男は5千円の値を自分でつけた。いい値段がつけば「親父もどんなに喜ぶか」と言いながら◆長い引用になったが、古書店を営んでいた直木賞作家、出久根達郎さんのエッセー「おやじの値段」である。店主時代の体験談だろう。父への子の心情が味わい深い◆きょうは「父の日」だ。贈り物を呼び掛けるポスターが店先にある。しかし「母の日」に比べて存在感は乏しい。「わが家では 子供ポケモン パパノケモン」というサラリーマン川柳があったが、父の影は淡い◆出久根さんのエッセーで、本を手に男が話す。「親父がどんなことを考えていたのか知りたくて」。贈り物もいいが、父のたどった道を見つめ直す日になるのもいい。値段はつけられなくても。2019・6・16

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