日々小論

  • 印刷

 先日、出勤途上の駅のホームで数十枚の紙をぶちまけてしまった。電車を待つ間、ベンチで資料をぱらぱらとめくっていたところ、手を滑らせた。

 あたふたと紙を拾う。多くの通勤客が資料をまたいでいった。そこへ小学5、6年ぐらいの児童の集団が電車から降りてきた。社会見学だろうか、そろいの赤白帽をかぶっていた。

 「大丈夫ですか」。子どもたちは次々に立ち止まり、一緒に拾ってくれた。どの子もごく自然な態度だった。そして何事もなかったかのように再び列になって去っていった。「ありがとね」と涙が出そうになった。

 その資料は2020年度に始まる大学入学共通テストに関するものだった。欠陥だらけの入試で、英語の民間試験導入は中止になった。数学と国語の記述式の出題も見送られる公算だ。

 しかし、本当の意味で見直しが必要なのは、これらの入試を貫く「思想」というか、社会が子どもたちに発しているメッセージの方ではないか。そんなことをぼんやりと考えていてホームに散乱させたのだった。

 グローバル社会では実用的な英語力は必須、思考力と表現力を身に付けろ、でないと将来AIに仕事を奪われるぞ-。私たちは未来への希望や理想を語るよりも、競争に勝つ重要性ばかりを強調しているように思う。これではまるで脅し文句だ。

 駅での子どもたちの行動に胸を突かれたのは、親切さが身にしみたのはもちろんだけど、それだけではなかった。

 先を急ぐ大人との対比が鮮烈だったから。資料を落としたのが他の誰かなら、自分も足を止めなかっただろうと思ったから。「勝つこと優先」に代わるメッセージを、子どもたちが示してくれたような気がしたから。

日々小論の最新
もっと見る

天気(5月26日)

  • 24℃
  • ---℃
  • 60%

  • 25℃
  • ---℃
  • 50%

  • 26℃
  • ---℃
  • 60%

  • 26℃
  • ---℃
  • 60%

お知らせ