日々小論

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 遠い日の記憶がある。

 幼い頃、京都の鴨川のはたで暮らした。河川敷では黄緑や薄墨色の羽が美しいイトトンボが乱舞し、巻き貝のカワニナをいくらでも捕ることができた。

 1960年代の前半。大都市でもまだ自然が残っていた。

 だが、いつからかイトトンボの乱舞は姿を消した。鴨川べりを歩いても、まぶたの裏の風景と出合うことはなくなった。

 神戸でホタルの飼育に取り組む人から「幼虫のえさになるカワニナが激減」と聞いたのは30年ほど前だ。「あんなにたくさんいたのに…」。現実との落差がしばらく埋まらなかった。

 「メダカが減っている」「赤トンボの姿を見ない」。同じような話をその後、兵庫県内で何度も耳にする。衝撃を覚えつつ記事にしてきたが、どうやら事態は加速し、生き物が次々に姿を消しているようである。

 世界中で昆虫の40%が劇的に個体数を減らしている。英国のBBC放送がそう報じたのは今年2月。向こう数十年で4割が絶滅する恐れがある。そんな論文が発表されたと伝えた。

 学校の先生たちがまとめたリポート「新・神戸の自然シリーズ」でも、「絶滅しそうなトンボたち」として赤トンボのミヤマアカネをはじめ30種超が掲載されている。身の回りでも自然は急激に姿を変えている。

 水質悪化や農薬、河川改修の影響などが原因とされる。BBCの報道はさらに、気候変動による生態系の崩壊も昆虫激減の理由に挙げている。

 いまいましいことに、人間社会に同居するゴキブリなどの害虫は増えているそうだ。害虫は困るが、虫がいない環境では私たちも暮らせないだろう。

 失われた風景が鳴らす警鐘が大きく、重く響く。

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